さよなら、L





とうとうお前をこの手で殺してやれる。


生温く不快な夏の風のように僕の躯に纏わりつくあいつを。あいつが消える。この世から。僕の前から。こうして僕は新世界の神へとまた一歩近付く。目障りなあいつ、Lを。
ミサの死神は云った。いいだろうLを殺してやるよと。駄目元で云った提案だったがあまりに呆気なくそれは受け入れられた。そう、それはあまりにも呆気ない結末だった。僕をこうまで追い詰めたLがこうも簡単に、死ぬ? とてもおかしな気分だった。それは名前もつけられないようなものだったが、きっと僕のこの手であいつを殺してやれないという不快さとあいつがこんなに簡単に死ぬのかという不可解さなのだろう。ひとはあまりにも儚い。ノートに名前を書く。それだけでそいつの命は消える。それがLにも適応されるというのがなんだかとてもおかしな気分だった。あいつも人間なのだから当たり前のはずなのに、なぜかとてもおかしな感じがする。手に入れるのは難しいと思っていたものがあまりにも簡単に手に入ったとき、ひとはこんな気分になるのだろうか。
少なくとも僕に判ることはLは死ぬということだ。僕の前からLは消え失せる。
これ以上愉快なことってあるだろうか?






     *     *     *





「・・・どうしたんですかライトくん、今日は大人しいですね」
ライトの顔のすぐ近くに顔を寄せ、Lが睦言めいて囁く。はぁ、と苦しげに吐かれるライトの甘い吐息が耳にかかりLは目を細める。ライトはなにもかもが完璧でうつくしい。Lは自身の躯の下にあるライトの肢体をうっとりと見つめた。まるで神が気紛れに現世につくった芸術品のようだと思う。ライトは繊細な硝子細工に似ている。
苦しいですか、とLが呟く。ライトは顔を覆うようにしていた右腕を動かしようやく覗いた瞳でLをキッと睨む。快感と熱に浮かされても意志の強さを消し去らないライトの瞳はLが一番気に入っているものだ。
「・・・別にどうもしないさ。そういうときだってあるんだ」
意志の滾る瞳をふいと逸らすと、ライトはぽつりとさっきのLの問い掛けに答えた。その返事にLは、おや、と思う。行為の最中にライトがLの言葉にこんな風に従順に反応を返すのは初めてだった。
なにかあったのだろうか。絆された、ということではないだろう、きっと。彼はそんな人間には思われない。
「ライトくん、」
「・・・・・・」
ライトは今度は何も答えなかった。Lを見るライトの瞳の中になんともいえないような色の光が過ぎる。だがそれは一瞬よりも短い間に消え失せ、ライトはそっと瞳を伏せる。Lの視点からはライトの長い睫毛に邪魔されてライトの瞳の色がよく読めない。それでもLがじっと彼の顔を見つめていると、ライトの眉が少し顰められ、長い睫毛が密かに震えるのが判った。そして彼は何らかの感情を押し殺そうとするように小さく唇を噛んだ。あまりにも繊細で艶めいたその仕草にLは息を詰める。
裸の肩に手を置くとまた耳元に口を寄せ、彼の名を呼ぶ。・・・ライトくん。肩をぴくんと跳ねさせ、彼は居心地悪そうに身動ぎする。けれど少し間を置いた後にライトはしなやかな腕を持ち上げ、Lの首筋に顔を埋める。戸惑うようにそっと自身を引き寄せるライトにLは目を見開いた。
逡巡した後にLは口を開いた。「―――泣いているんですか?」
その言葉にライトがどんな表情をしているのかはLには判らなかった。けれど押しつけられた躯は微かに感情の波を見せる。
「・・・泣いてなんかあるもんか」詰めた息を吐き出すようにライトが云う。
「ライトくんの顔が当たる部分が冷たいです」
Lは他にライトにかける言葉を知らなかった。どんな声音を使えばいいのかも。だから努めてやさしく言葉をかけることも、いかにも淡白で残酷な言葉を吐くこともできずに曖昧な言葉を曖昧な声音で告げた。
ライトはそんなLを小さく喉を鳴らして笑った。それが誰に対する嘲笑なのかはライトにも判らなかった。
「知らないよ。お前のためなんかじゃない。お前に判るものか」ライトは声を上げずに涙を零す。



それは新世界の神が零すさいごの涙だった。








page31「簡単」後のL月妄想文です。この話の流れ的にはこの後Lは死にます(笑)。それでライトは新世界の神になるのですねー。
デスノは原作が展開がコロコロと二転三転ところか七転び八起き並みに変わるので読者的には嬉しい反面、
腐女子的には非常に創作がしにくいです。原作に沿わしてもすぐに方向転換するんだもんなあ・・・。まあ、そこが魅力なんですけれども!
   2004.07.26 (コメントを書いてUPしたのは八月ですが・・・。日付は文を書いた日です)