すきすきだいすき!
彼と出会ったのは唐突で、そのあともびっくりするくらいストレート直球ど真ん中、弾丸みたいなスピードでリオンくんは笑ってこう云った。 「好きだよ、レツ!きみがすき!」 あんまりにも真っ直ぐ、あんまりにもきれいな笑顔で云うものだからぼくは思わず頷いてしまって(嘘。ほんとはぼくだって最初から彼のことが気になってた)(はずかしいから絶対云わないけど!)、その3秒後にはリオンくんの腕の中だった。 うれしいうれしいとってもうれしい!ありがとうレツ!とぼくを抱きしめたままリオンくんは空にでも飛び上がりそうな声をあげた。おおきな人懐っこい、子どもの犬に抱きつかれたみたいな気分になって、ぼくが思わず笑ってしまうと、リオンくんはきょとんとしたあと、またにかっと明るい(太陽みたいな!)笑顔を浮かべて、しあわせにするよ、だなんてプロポーズみたいなことを云うものだから、ぼくの方こそ、ほんとうに(太陽みたいに)真っ赤になってしまった。夕暮れ時だったらバレなかったのに、残念ながらそのときは真夏の昼間、青空の下だったのでぼくの顔色はバレバレだった。今でも思い出すと顔から火が出そうになる思い出のひとつだけれど、そのときのリオンくんの全開の笑顔と一緒に記憶されているから、忘れることは決して、できない。 どうもぼくはリオンくんの笑顔に弱いみたいだ・・・。あの全身全霊でうれしい!たのしい!だいすき!を表現してるみたいなふうに笑顔を向けられると、抗えない。ああもうなんだってしてあげるよ!っていう気になってしまう。親鳥は雛のぱっくりとあけた口の赤さを見ると、なんとかしてやらなきゃ!と愛おしさを感じてしまうらしいけれど、ぼくもそれに近いのかもしれない。 まずいなあ、と思うんだけれど、こればっかりはどうしようもない。別にリオンくんはそんなへんな要求を突きつけてくるわけじゃないけれど、人前だろうとなんだろうと、会うたびに生き別れのきょうだいがやっとめぐりあった!みたいな大げさなハグと頬へのキスをもって迎えられると、さすがに周りの視線に居たたまれない気分になる。それはわかりきっていることなのにぼくはリオンくんを拒むことができない。 一度だけ、人前で抱きつくのはナシ!と云ったことはあるのだけれど、ものすごくショックを受けた顔(マンガにしたら絶対に背景に雷鳴が轟いていたに違いない・・・)で固まったあと、しゅんとした表情で「・・・うん、レツがいやなら、やめるよ」と悲しげに微笑んだのを見た瞬間に「やっぱり今のなし!!」と叫んでしまった(そのときのうれしそうな顔といったら!)(しっぽがあったら間違いなく振り切れそうなほどだった)。 ああ、悲しいことにぼくはどうしたって長男の血が流れているらしい(だってあんな顔されてそのまま貫けるほどぼくは非情でも強くもないんだ!)。 そんなあまえんぼうのわんこみたいなぼくの恋人は、いつも会う度、絶好調でごきげんだ。 レツあそこを見に行こうよ!レツあれはなに?レツ見て!すごくきれいだよ!これすごくおいしいんだって、レツ一緒に食べようよ!うん似合うよ、とっても可愛い!・・・レツ怒ったの?ごめんね、そういうつもりじゃなかったんだ。ほんとに?ゆるしてくれる?ありがとうレツ!だいすきだよ! あんまりにも真っ直ぐに向けられる感情にときどきくるしくなったりするけれど、一緒にいるととてもたのしくてうれしくて、でもそういうのはなかなか云いだせなくて、ぼくはいつも、「すきだよ」と満面の笑みで云われても、赤い顔でうつむき加減に、うん、と頷くことしかできない。だから、ときどき不安になる。いつか愛想を尽かされやしないかって、いつか、きみに、置いていかれやしないかって。 そのことを零すと、相談相手の彼女は呆れた顔で肩を竦めるばかりだった。 「・・・あのねぇレツ、それって絶対ないと思うわ。うちのリーダーがあなたのこと諦めるよりも可能性はだいぶ低いわね」 ていうことはほとんど0%ってことよ。アフタヌーンティと云うにはだいぶ色気のない缶の紅茶を片手にジョーさんは云い、ため息を吐いた。 「不安なら、云ってあげればいいじゃない。スキだって」 「・・・・・・なんか今更、云いづらくって・・・」 ぼくが云い淀んで、握り締めた缶のプルトップを見つめていると、ああ神様!と云わんばかりに彼女は空を仰いだ。 「今更そんな照れてる仲でもないでしょあなたたち!大体会う度会う度あーんなラブラブバカップルなことしちゃってるくせに何云ってるの!・・・・・・まあ、そんなレツだからこそ愛されてるんでしょうけどね」 もちろんわたしもレツのそういうところ、とても好きよ、と彼女は悪戯っぽく微笑み、「でもいまのは内緒ね。リーダーに睨まれちゃうから」と唇のまえに人差し指を立ててウインクした。そして二人で目を見合わせてくすくす笑っていると、うしろから「レツ!」と呼ぶ声がして振り返ると、リオンくんが肩で息を切らせて立っていた。 あらあら王子様のお迎えね、とジョーさんがこっそりとぼくの耳元で囁くのに、思わず赤くなってしまった(お、王子様って!)。すると、リオンくんは「行こうレツ!」と急にぼくの手を掴んでずんずん歩き出してしまった。ぼくが驚いて、ちょっと待ってよ!と云ってもお構いなしで手を引くのに、引きずられる形になって着いてゆくぼくの背にジョーさんが口元に手をあてて「ちゃんと態度で示さなきゃだめよ〜!あと、紅茶ごちそうさま!」と声をかけるのに慌てて手を振り返した。 「リ、リオンくん!ねぇ、ちょっと!・・・まだちゃんと挨拶もできてなかったのに・・・。ねぇ、リオンくん、聞いてるの?」 「・・・・・・・・・・・・聞いてるよ」 ふてくされたような声でようやく返事がかえってきて、ぼくは驚いてしまった。 「・・・リオンくん?どうかしたの?」 ぴたりと立ち止まって俯いてしまうリオンくんに急に不安になってそう聞くと、彼は 「・・・レツこそ、あの子となんの話してたの?」 ずいぶんとたのしそうだったけれど、と今まで聞いたこともないような冷たい声にぎくりとした。さっきまで傍にあった不安がじわじわと背筋から入り込んでくる。冷気が肺に触れ、息がつまる。そんなことあるわけない、とジョーさんは笑ったけれど、やっぱり、もしかして、が頭を過ぎる。唇が凍り付いて動かない。不自然な沈黙。 「・・・・・・ぼくといるより、たのしかった?」 「えっ!?」 ぽつりと、くるしげに、かなしげに呟かれた言葉にぼくは目を瞠った。驚いてリオンくんの顔を見つめると、不機嫌な表情のしたに他の感情が滲んでいるのに気付いた。ぼくがじっと(ぽかんと口を開けて)見つめていると、リオンくんはぎゅっと顔を顰めてそっぽを向いてしまった。かろうじて見える頬が赤い。 「リオンくん、もしかして・・・やきもち、やいてたの?」 「・・・妬いてるよ。いつも妬いてる」 「え・・・」 リオンくんはぐしゃりと頭をかくと、ため息を吐いて、ぼくに向き直った。 「・・・ほんとはレツがぼくのことだけ見て、ぼくとだけ一緒にいてくれたらっていつも思ってる。ぼくはレツのことがすきですきでたまらないけど、レツはそれほどぼくのことすきじゃなくって、ただぼくがあんまりにも必死だったからOKしてくれただけなんじゃないかって、いつも、気にしてて・・・、レツが誰か他のひとと話したり、わらったり、仲良くしてると、くるしくなるんだ。でも、レツに・・・きらわれたくなかったし、あんまり云わないようにしよう、考えないようにしようって思ってた」 「リオンくん・・・」 「・・・でもやっぱりだめみたいだ。だって、ほんとにレツのことすきだから、レツのいちばんになりたいって思うけど、自信、ないし・・・・・・。笑ってもいいよ。ほんとはぼくは全然余裕なくて、かっこわるいやつなんだ。・・・・・・がっかりした?」 レツの前ではかっこよくいたかったんだけどなあ。泣きそうな顔で笑って、ごめんねレツ、と消え入りそうな声でリオンくんは云い、ぼくに背を向けた。きつく握られた拳が震えている。 リオンくんがそんなふうに考えて、そんなふうに思って悩んでいただなんてぼくは全く知らなかった。なにも知らずに、リオンくんのやさしさに甘えていただけだった。 リオンくん、と声をかけて肩に手を伸ばすと、びくりと肩が震えた。ごめん、とちいさな声でリオンくんは繰り返す。ごめんねレツ。 謝らなきゃいけないのはぼくのほうなのに。震えるからだが痛々しくて、後ろからきつく抱きしめた。 ごめん、ごめんねリオンくん。ぼくより広く、たくましい背中に顔をうずめながら云うと、リオンくんが驚いたようにぼくの名を呼ぶ。きみに伝えなくちゃならないことがたくさんあるよ。すきだと云ってくれたときどれだけうれしかったか、きみが笑顔でぼくの名を呼んでくれたときどれだけ幸福だったか、一緒にいられてどれだけ胸が熱くなったか。そういうことをたくさんたくさん、今まで伝えられずにいたものを、みんなきみに伝えよう。リオンくん、きみがどれほどたくさんのものをぼくに与えてくれたか。 態度で示さなきゃだめよ、と云われた言葉が耳に蘇る。ほんとだね、ジョーさん。動かなきゃなんにも始まらない。 「レツ・・・?」 急に笑い出したぼくを不安そうに見上げるリオンくんにぼくはめいっぱいの微笑みを向けた。 初めて触れたリオンくんの唇はやわらかくて、すごくどきどきした。このキスが終わったら今度こそきちんと云おう。そう心に誓って、目を閉じた。 ( ぼくもきみがすきだよ、世界でいちばんきみがすき! ) |
絵茶の正義のあみだくじ(笑)で引いたお題「リオン烈」「後ろからぎゅーっ」で書きました。
リオンくん初めて書いたんですが、うわーすっごいたのしかった!多分すっごい似非だけど!!
素敵なお題をありがとうございました!(後ろからぎゅーがあんま生かせてないんですがっ・・・orz)
ということで破天荒さんに捧げます・・・!よろしければお嫁に貰ってやってください!
2007.01.07
☆おまけ☆
ついでにルー語変換というのをやってみたら死ぬほど面白いものができてしまったので、
ここにも張っておきます(笑)
もうわたし笑い死ぬかと思った・・・!!
お暇な方はこちらからどうぞ〜笑撃必至です。
「ライキングだよ、レツ!」の時点で悶絶した・・・(爆笑)