いい人?そんな評価じゃ全然足りない。もっともっと貪欲にオレを欲しがれよ、もっと求めろよ。このままイイヒトでなんていられない。



☆ 「いい人」 ☆


 夏大の男子便所でオレのことを「いいひとだよ!」と云いだして、オレを大いに驚かせたのは西浦のピッチャー。西浦のピッチャーってことは、あのタカヤのピッチャーってことだ。しかもタカヤはこいつに相当執着してるらしい。へぇ面白そうじゃん、と興味半分にその後声をかけたのが運の尽き。そのあとはずるずると例のコースにまっさかさまだ。要するにフォーリンラブってこと!
 だってこいつめちゃくちゃ可愛いんだもんなぁ。あのクソ隆也と同じ人間とは思えないくらい可愛い。すぐ泣くし、ネガティブ思考だし、めんどくさいとこばっかなはずなのに、それでもずっと傍にいたいって思う。君の涙をぬぐうのは僕であればいい、なんてどっかのラブソングにありそうなことを真剣に思ってみちゃったりするわけだ。これを恋と呼ばずに何を恋と呼ぶ? そう自覚したら、やることはひとつだ。
 お前のこと好きだからオレと付き合えよ。そう云ってキスしたら三橋はただでさえデカい目をおおきく見開いてぐしぐしと泣き出した。そこまで嫌わなくても、と結構本気でヘコんだが、三橋はこくこくと頷いた。涙で顔をぐちゃぐちゃにして、オレも榛名さんがすきです、と泣く三橋はとてつもなく可愛くて可愛くて思わずその場でいただきそうになってしまったが、そこはなけなしの理性で堪えた。これからチャンスはいくらでもあるんだ。そう思うとオレは寛容な男でいられる。もっかいキスしていいか?と訊くと、三橋は顔を真っ赤にしてちいさく頷いた。火傷しそうなほど熱い頬とは反対に三橋の唇はひんやりと冷たくて、やわらかかった。

 榛名さんかっこいいです、榛名さんはやっぱりいいひとですね、好きです榛名さん。

 そんな廉の言葉はオレをとろかすけど、そんな風にきらきらとした目で見られるとどうにもそれ以上のことに進むことに罪悪感を感じてしまう。新雪を踏み荒らす気分というかなんというか。
 要するに名前で呼んでキスして抱きしめて、それ以上もコイビトとしては望みたいわけだが、一向に廉に手を出せない。秋丸にそう云ったら、「高校生らしくていいんじゃないの。今更だけどプラトニックな関係ってのも体験しとけば」とちょっととげとげしく云われた。こいつにはオレの今までの女遍歴がバレてるからどうにもやり辛い。
「今日びのコーコーセーが恋人とエッチもしないでどーするよ」
「お前の今までがおかしかったんじゃない」
「でもさーやっぱやりたいお年頃なわけだよ。いい加減ひとりで処理すんのもさあ・・・」
「うわお前あの純粋なレン君で何してるわけ。最悪。レン君が穢れる」
「・・・・・・・・・・・・ほっとけ。あと廉の名前勝手に呼ぶな」
「こころ狭いね〜榛名。罪悪感感じるくらいならやんなきゃいいのに」
「るせ」
 この気持ちがお前にわかるかよ、くそっ、他人事だと思いやがって。(や、判られても困るんだけどな。廉はオレのもんだし)

 いいひと、かっこいい、すごい。廉の賛辞の言葉はオレをとろかすけれど、その言葉はオレの脚を絡め取って、中学生日記みたいなプラトニックさしかオレに赦さない。少し前までだったらそれだけでもよかったけど、もうそれだけじゃダメだ。貪欲なオレはそんなんじゃ満足できなくて、全身で廉を感じたがってる。
 なぁ、廉。お前の言葉はとても甘くてすげー気持ちイイけどさ、もうそれだけじゃ足りないよ。お前のぜんぶが欲しくてたまんない。にこにこと赤ン坊みたいに無邪気に笑う廉にはまだちょっとばかし刺激が強いかもしんないけど、いいよな?





このままイイヒトでなんかいられない。オトコはみんなオオカミなんだぜ可愛い可愛いオレの赤ずきんちゃん。お前の甘い言葉がオレの理性を喰い殺す。お前を美味しくいただく日はそう遠くない。

(2005.01.14)