恋せよ少年、青春最中!


 ―――今日、三橋とキスをした。
 チューじゃなくてキス。チューよりキスのほうがちゃんとしてるって感じがするから、あくまでおれはキスと云い張る。(あーキスだって!なんかカックイー響き!)まだ舌は入れてないけど、まぁそれはそのうち。だっていきなり入れたら三橋はびっくりして噛みそうだし。
 ちっさい頃のオヤとか犬とか猫とかを除けば、たぶん、三橋としたのが生まれてはじめてのキス。こないだクラスのジョシに貸してもらった少女漫画みたいなロマンチックな感じ(見下ろすキラキラな夜景・観覧車のてっぺんで!)じゃなかったけど、まあ別にそれはいいと思う。だっておれたち男同士だし。三橋もそんなこと気にしてないよな。
 朝に雨が降ったから、チャリは家に置いてきてて、だから帰り道は三橋と一緒に歩いて帰ることにした。手を繋いで。なんかたのしくって繋いだ手を振り回していたら、まだ部室に残っていた阿部に怒鳴られた。(「テメー!投手の手なんだから乱暴に扱ってんじゃねぇぞ!」)(阿部ってほんとにウッセー!コジュウトみてぇ)(ユウイチロウさんホコリが残ってますよ!、なんつって) 阿部の雷を背に、おれは三橋の手をつないで駆け出した。「あんまり怒ってばっかいっと、阿部ハゲんぞー!じゃーな!」げらげら笑いながら云うと、阿部の血管がぶちりと切れた音がした。花井が、たぁじまあー!と青褪めた表情で拳を振り上げるのにバイバイと手を振る。さっきの花井とおんなじくらい青い顔でぶるぶると震える三橋を引き摺るようにおれは脚を早くする。阿部の雷が落ちるまえに逃げよーぜ!冷たくなった三橋の手をぎゅっと握りしめ、おれはニッと笑う。まだ不安そうな顔をしていた三橋も、阿部の怒鳴り声が響いてくると、う、うん!おれ、逃げる よ!と涙目でおれの手を握り返してきた。
 途中でコンビニに寄り道した。おれは肉まんとピザまん、三橋はピザまんとあんまん。歩きながらかぶりつく(コンビニの肉まんが始まると、あー今年も冬が来たんだなーって思うのはおれだけじゃないはず)。はふはふと熱いのに勢い込んで食べる三橋にヤケドすんなよ、と云うと、うんうんと口のなかをいっぱいにしながら三橋は頷いた。その口元に食べかすがくっついてんのに気付いて、そのことを云うと、三橋はあわててごしごしと擦ったけれど、ぜんぜん見当違い。ちげーって、逆逆、とおれは三橋の頬についたアンコをぺろっと舐めた。あ、甘くてうめー。やっぱりおれもあんまん買えばよかったかなとか思ってると、三橋が目を見開いたまんま固まっていて、ありゃと思う。でもすぐ近くに三橋の唇があって、ちょうどよかったからそのままキスをした。三橋の唇はほっぺたよりもふかふかの肉まんよりもやらかくて、甘い味がした。まあ、あんまん食ってたんだから当たり前なんだけど。舐めたらまずいかな舌入れちゃおうかな。そんなことを思ったけど、三橋があんまりにも固まってるから、キスだけでおしまいにした。普通こーゆーとき目閉じるもんじゃね? おれが云うと、三橋はあんまんを落っことしそうになった。おれがあわてて手から零れたあんまんをキャッチして手渡すと、三橋はたどたどしくお礼を云って、最後の一口をぱくりと頬張った。もぐもぐ。あ、ありがと う。ぎくしゃくって音がしそうな動き。油の足りないオモチャみてぇ。それでも食べるところはさすが三橋ってカンジ?
「な、やだった?」
 おれが聞くと、三橋はちょっと考えたあと、首を振った。
「・・・び、びっくりし、たよ」
 ほうっとためいきを吐く三橋にそっかー、とおれは云って頭の後ろで手を組む。
「じゃあ次はちゃんと云ってからにする」
「つ、ぎ?」
「うん、次。キスしていいですか、って訊いてからならいーだろ?」
 おれの言葉に、三橋の頭のコンピューターが重たい音を立てる。ウイーン、ガシャガシャ。三橋の返事は「う、うん?」だった。語尾が半分あがってて、それはアウトなのかセーフなのかはっきりしなかったけどおれは聞かなかった。だってやじゃないってさっき云ったし。おれはまたしたいし。
「三橋、おれのことすき?」
「たじまくん?」
「そう、おれ」
 三橋はちょっと黙った。あ、さすがに友だちのスキじゃないってことはわかってるんだな、とちょっと安心した。だってこの状況でまあキスしたあとに云ってんだから、これでわかんなきゃ困るけど。返事をしない三橋におれが口を開く。センテヒッショーってこーゆーこと? おれはやっぱり攻めて攻めて攻めまくるのがトクイなんだ。
 あのさあ、と云うと、三橋がゆっくりとおれを見上げた。
「おれは三橋のこと好きだぜ!すっげー好き。どんぐらい好きかってーと三橋でオナニーしてすんげーきもちくなれるくらい好、」
「たたたたた田島くん・・・っ!!」
 あわあわと顔を真っ赤にした三橋に、両手でむぎゅっと口を押さえられて、おれの世紀の告白はそこでオシマイ。三橋は心配そうにきょろきょろと辺りを見回している。そんなに心配しなくっても誰もいねーのに。それにおれは別に聞かれてもぜんぜん困んない。だって三橋のこと好きなのはほんとだもんな。
「なー三橋は? おれのことすき?」
 おれの口を押さえていた手をとって訊く。三橋は、え、とか、う、とか云いながら、あたりをおどおどと見回していたけれど、観念したみたいに、うん、と頷いた。
「・・・うん、おれ、田島くんのこと好きだよ」
 三橋はマウンドに立っているときみたいにまっすぐな目でおれを真正面から見つめて、おれは背中がぞくぞくした。いつもの三橋も好きだけど、三橋のこういう顔もおれはもんのすごい好きなんだ。この目がいっつも見れんだったらずっと捕手やってもいっかなってちょっと思うくらい。
 にいいっとおれは笑う。三橋がつられて、うひ、と笑った。
「じゃあ、おれたち両想いじゃん」
 ちょーラブラブってカンジ!とおれが三橋の手をほっぺたにくっつけて云うと、三橋もうれしそうに繰り返した。ら、らぶらぶ。そう、ラブラブ! 三橋の手はすごくあったかい。人間ホッカイロ。
「なー三橋ィ!」
「なに? 田島くん」
 おれはうきうきしながら口を開く。三橋がきょとんと首を傾げた。
「おれのこと好きっ?」
「うん!」
「大好き?」
「うん!」
「おれも三橋のことちょー好き! じゃあおれのこと愛してるっ!?」
「うん!」
「じゃあキスしていい!?」
「・・・それは、だめ」
 頷いてくれると思ったのに、あっさり拒否られて、おれはちょっとだけ傷ついた。例えるなら自信満々で振ったバットがボールに掠りもしなかった、みたいな。
「ええええーなんでぇー!」
 好きならキスしてもいいじゃん!と唇をとがらせると、三橋は困った顔をして俯いた。じっと汚れたスニーカーの爪先を見つめてなんだかもじもじしている。あーこうして見ると、三橋って結構まつげなげーな、とおれは思った。ジョシみたいにマスカラ塗ったりピューラーでひっぱったり巻いたりしなくっても三橋のまつげはキレーだ。
 そんなことを思ってると、三橋がぼそりとなにか呟いた。ん?と聞き返すと、三橋は顔をあげ、きゅっと唇を噛みしめて、ささやくみたいに云う。・・・・・・今日はもう、だめ。
「今日は・・・ってなんで?」
 しちゃだめってわけじゃないんだろ?ならなんで今日はだめなんだよ。お預けをくらったおれが唇をとがらせると、三橋は、はふ、と息を漏らした。目元とかほっぺとか耳とかを夕陽とおんなじ色にして、サイッコーにかわいい色っぽい顔で三橋ははずかしそうに目を伏せて云った。
「・・・・・・きょ、今日 は、これ以上したら、もう、おれ、どきどきしすぎて、死んじゃうかも」

 ―――うわ、ごめん、三橋。チンコ勃っちった。(でもお前がそんなにカワイーのがわるいんだ)



     *     *     *



 次の日、泉に「おれ三橋とラブラブになった!」とうきうきしながら報告したら、泉はもんーのすごく嫌そうな顔をした。・・・はあ?と云う顔は、キレた阿部に似てた。たぶん本人に云ったらすっげー怒りそうだから黙ってるけど。
「だから、おれと三橋がー」
「ラブラブってなんだよ。ラブラブって」
「だからそのまんまだって。おれは三橋が好きで、三橋もおれを好きだってゆーから、」
 そう云うと、ぴくりと泉は眉を寄せた。・・・三橋が?そう云ったのか?
 おーよ!とおれはにかっと笑ってVサイン。
「・・・普通に友だちとしてじゃねーの?」
「えー違うだろ」
「なんで云い切れる?」
「だっておれ三橋にキスしたあとに云ったんだもん。三橋いやがんなかったし」
 ベキョッとすごい音がしたと思ったら、泉が持っていた缶を握りつぶしていた。まだ残っていた中身が勢いよく飛び出して、泉の手と机を濡らした。・・・モモカンみてー。
 泉はかわいそうなポカリの缶を握りしめたまま、ガタッと立ち上がった。
「あれ、泉何処行くの?」
「・・・・・・手ェ洗ってくる」
 それだけ云い残すと、泉は乱暴にドアを開けて(ドアのすぐ脇に座ってたやつが泉の顔を見て、ひいっと悲鳴をあげた)、教室を出て行った。
「? 泉くん、どした の?」
 泉とすれ違いに、逆側のドアから入ってきた三橋がパンを抱えて首を傾げた。
「水道だってさ」
 心配しなくてもすぐ帰ってくるから先食っちゃおうぜ。あ、そこ濡れてるから気をつけろよ。
 なんで机が濡れてるんだろう・・・と不思議そうな顔をする三橋のまえでおれは手を合わせる。いただきまーす! 三橋もあわてたように椅子に座り、手を合わせた。い、いただき、ますっ!
 うまそう・うまそう・うまそうー!と唱えておれと三橋は勢いよく昼ごはんにかぶりついた。
 今日の昼飯は豆ご飯・唐揚・玉子焼き・アスパラベーコン巻き!弁当箱にはおれの好物がいっぱい詰まってる。ホントは赤飯がよかったんだけど(だって昨日はちょーめでたかったし)、おととい結婚式の引き出物で食ったばっかだから嫌だっていう兄ちゃんに却下されたから豆ご飯になってしまった。似てるようでぜんぜん違う、とおれは思ったけれど、でもうまいからいいや。
 三橋は今日は購買で買ってきたパンをもぐもぐ食べている。たまごとハムと野菜のサンドイッチ、カレーパン、クリームパン。3つをちょっとずつ器用にかじっていく三橋の唇がカレーパンの油でてらてらと光るのを見ながらおれは、あーキスしたいなあと思う。そんであと何回くらいキスしたら、その先もできるかなとか考えるのはしょうがないと思う。だっておれら健全な男子高校生だし!
 おれがじっと見てるのに気付いた三橋が、きょとんと瞬きをしたのに、にかっと笑顔を返す。へへへっ。うひっ。
 うれしそうに笑う三橋の顔を見ながら、これ食い終わったら三橋連れて校舎裏行ってキスしよう、三回くらい、ゲンミツに、とおれは誓った。のんきそうに、ごはんおいしい ね、とにこにこする三橋の頭をぽんぽんと撫でておれも笑った。うん、そーだな!ちょーうまそう!
 ゴチソウサマのあとに待ってるデザート(もちろん三橋!)がおれはイチバン楽しみなのだけれど、それはまだまだナイショにして、いまは一生懸命目の前のご飯にビビッと集中・集中・集中!



(チロトロピン・コルチロトロピン・ドーパミン。おまけにアドレナリンまでがんがんおれの脳内に出さしてくる三橋は梅干以上にわかりやすいおれのコーフンの反射アイテム)




ほんとはもっと大々的にシーモネーターなタジミハを書こうと思っていたんですが・・・あれぇ?(笑)
三橋にO☆NA☆NIしてんの!?とかさらっと訊いちゃう田島さまが書きたかったのですが、
まぁ、それはまた次の機会(あるのか?)ということで(笑)
ていうか田島さまが色々と別人ですみません・・・!orz (むずかしいよ田島さま!)
2007.10.31