エース





三橋はきれいな目をしている。



いっつも思う。三橋はきれいな目をしてるって。そうしてそれを三橋に云いたくなるのをオレはガマンしている。(だって云ったら三橋はすごいはずかしがって、きっとオレと目を合わせられなくなっちゃうだろうから。それだけは絶対イヤだもんな)
三橋はすごくかわいい。マネジとかもかわいいと思うけど、三橋とはまたちょっと違うと思う。マネジはきれーな花束で三橋はすごいおいしそうなケーキって感じ。簡単に云っちゃえば、食べちゃいたいってことかもしんない。

こないだ、初めて三橋の球を受けた。阿部はちょっとイヤそうな顔でオレを見てたけど、三橋はちょっと不安そうな顔でオレを見てたけど、オレはごきげんだった。だってちょっとの間だけでも三橋はオレだけのエースになる。それって三橋をヒトリ占めできるってことだろ? いっつも三橋のトナリには阿部がトーゼンって感じでいるから(まあそれはしょうがないんだけど)、こーゆーことってめったにない。だからオレはうれしかった。最近は三橋もけっこう視線が合うようになってきたけど、やっぱり三橋のおどおど病は完全には治らない。だけどマウンドに立つ三橋は十八.四四メートル先の阿倍の目をしっかり見すえている。それは、その視線の先にいることのできる阿部がうらやましくてたまらなくなるほどにきれいな視線だった。マウンドの三橋はまぎれもなくエースだった。だから三橋はもっと自信を持っていいとオレはいつも思う。他のみんなだってそう思ってる。

オレがサインを出し、三橋がうなずき、そして十八.四四メートル先のオレに球が投げられる。そのあいだ、三橋の視線はオレに固定されている。ゲンミツに目をそらさずに、オレをじっと、あのきれいな目で見ている。三橋の目。あの目はすごい。すぐに涙でいっぱいになるあの瞳には、もろさと強い意志が同居している。まっすぐに前を透明な視線で見すえる三橋がオレはすごくスキだ。
オレは三橋にエースはお前のもんだって云った。だって三橋は充分にエースだった。でもやっぱり三橋はいつまでたっても不安げで、だからオレは何度でも云うんだ。お前はすごいよ。お前はここのエースで、オレらの大事な仲間だよ。三橋はそうすると、またすこし泣きそうな顔を赤くして笑う。ありがとう、をたどたどしく繰り返す三橋の目はやっぱりすごくきれいだった。





2004.10.04