約束は青空のむこう
約束は青空のむこう
「美雪、花火大会行こうか」 おねえちゃんがそう云ったのは、わたしがおねえちゃんのベッドに横になって雑誌を見ているときだった。今日出たばっかりのファッション誌。あんまりにも暑くて外に出るのがいやだったわたしが、コンビニに行くというおねえちゃんにねだって買ってきてもらったもの。 「どうしたの、急に?」 わたしが雑誌から目をあげて聞くと、おねえちゃんは、んー、と窓の外を見つめたまま生返事をした。出窓のところに腰掛けて(あぶないからやめなさいってお母さんは怒るけど、おねえちゃんはそこがお気に入りらしくてしょっちゅうそこにいる)、ベッドのうえのわたしからはおねえちゃんの頬のラインしか見えない。窓の外はほんとうに透き通った青で太陽のひかりがきらきらと窓硝子に反射している。 「おねえちゃん眩しくないの」 「んー、別に平気」 「日焼けしちゃうよ?若い内に紫外線いっぱい浴びちゃうと年取ってから大変なんだから」 「さっきコンビニ行くとき日焼け止め塗ったもん」 おねえちゃんは笑いながら振り返った。「心配してくれてありがとー」 その笑顔に、うん、とわたしはもごもご口の中で呟いてまた視線を雑誌に落とした。内容なんて全然頭に入ってこないけどぺらぺらとページをめくってゆく。おねえちゃんの笑顔なんて見慣れてるはずなのに、最近はそれがちょっと変わった気がして、なんだかどきどきした。なにかあったのかな。そう思うけれど、口に出して聞くことはできなかった。おねえちゃんの友だちの功介さんに、最近なにか変わったことはありませんでしたか、と聞いたときも功介さんはちょっと変な顔をした。眩しいものを見るような顔。友だちがひとり転校したんだよ。それだけ云って、功介さんは笑顔を浮かべた。留学するんだってさ。 その笑顔はおねえちゃんが最近浮かべるものととてもよく似ていて、わたしはそれ以上なにも聞けなかった(ほんとうは聞こうとしたけれど、そこで台所に麦茶を取りにいっていたおねえちゃんが帰ってきたので話はおしまいになってしまった)。 「ねえ行こうよ。浴衣着てさーちゃんと下駄とか履いて」 「ふたりで?」 「そう、ふたりで。ほら今度の土曜日、荒川であるでしょ。あれ行こうよ。いや?なんか用事ある?」 おねえちゃんの言葉にあわてて首を振った。 「ううん、いやじゃない!美雪、おねえちゃんと花火観に行きたい!」 「ふふーん、いいこね〜美雪ちゃん!」 「・・・・・・でもおねえちゃんこそ美雪とでいいの?」 「ん?」 「功介さんとかと行くんじゃないの?」 そこでおねえちゃんはまた笑った。わたしの知らないおねえちゃんの笑顔。 「・・・功介は、いそがしいんだって。あいっつ医学部受けるから、夏休みは勉強漬けなんだってさ〜!頭のデキがいいひとはやっぱ違うよねぇ〜」 ―――うそ。根拠なんてないけどそう思った。女の子の直感。功介さんはきっと断らない。たぶんおねえちゃんは元から功介さんを誘ってないんだろう。・・・なんでかはわからないけど。 「じゃあ美雪とおねえちゃん二人で行くの?」 「うん、いい?」 わたしが頷くと、おねえちゃんは嬉しそうに頷き返して、また窓の外を眩しそうに見つめた。ジージージワジワと蝉の大合唱が生温い風に乗っておねえちゃんの短い髪を撫でてゆく。絵の具で塗ったみたいにきれいな青空、おおきな入道雲、遠い街並み。おねえちゃんはいったい何を見ているんだろう。 ねえおねえちゃん、おねえちゃんが見つめる青空の先にはいったい誰がいるの? |
真琴と美雪のおはなし。ちあき⇔まこと←みゆきイメージで。
朝、荒川河川敷花火大会のニュースを見て、ぼんやりと思ったもの。
ラストシーンの「あたしの浴衣姿見たくないってのね!?」「悪ィ、それちょっと見てぇ」のこととかいろいろ考えた。
花火大会結局いけなかったもんね・・・。なんか他にも考えてたと思うんですが、忘れてしまった・・・しょんぼり。
なんで功介をハブったんだっけ・・・・・・orz(そこは大事だろう・・・)
(2006.07.28の日記ログより)
あー!それにしてもシスコン妹ってどうしてこんなにかわいいのか・・・!(笑)
時かけはやはりまごうことなき神映画です。ありがとう細田監督。
2008.08.18