世界でいちばんきらい


「ぼく、きみのことが大ッきらいなんだよね!」

 ギラギラと怒りを滾らせたふうでも、憎しみを込めて睨みつけるでもなく、むしろ嬉しくてたまらないといった様子でにこにこと、その白皙のかんばせに満面の笑みを浮かべて、獏良は云い放った。
 マグカップを両手で包みこむように持ち、紅茶を揺らす。視線は正面を向いたまま。
 夢見るように、なかば恍惚とした面持ちで獏良は、ふふふ、と笑い声を漏らす。
 のどかな放課後、誰もいない静まり返った校舎、理科室の窓の外からは笑い声掛け声歓声(ああなんて青春の日々!)、獏良はそんなうつくしい光景にはまったく似合わない言葉を連ねる。きみってほんとうにばかだよねぇ。
 いっそたのしげに、喜色を満面にたたえて微笑む姿はうつくしいはずなのに、それはどこか背筋が寒くなる美麗さだ。
「でもきみがそういうふうなら、ぼくはとってもうれしいなあ」
 そんな獏良の言葉に、眉を顰めるのに、獏良はまたくすくすと笑う。
 だって、そんなきみなんて――――にすらならないもんね!
 切り取られたように、その単語だけは彼に届かないまま、獏良に握りつぶされる。
 傲岸不遜・唯我独尊を地で行くようなクラスメイトが困惑と動揺を浮かべるのを獏良は冷ややかに観察していた。(教えないよ、)獏良はそっとこころのなかで呟く。(教えてなんかやるもんか)
 アルコールランプに掛けられたビーカーのなかでお湯がふつふつと煮立っているのを横目で見つめて、獏良はマグカップを覗き込む。ああ、せっかく淹れた紅茶が冷めてしまった。あたらしく淹れなおそう。
「・・・・・・おまえは、」
 耳に届いた言葉に獏良はつい、と顔をあげた。
 目の前の、獏良がこの世でいちばんきらいな男は、まるで砂を噛むような口調で口を開く。

 おまえはなにを知っているんだ。
 
 あいつの、と省略された言葉もきっちりと獏良の耳には届いた。
 獏良は無言ですっかり冷え切った紅茶を啜った。カップの底に溜まった砂糖がどろりと流れ込んでくる。
 焦れたように机を叩く姿を冷ややかに見つめて、獏良はコトリとカップを置く。
「なにをって、『なに』を? きみがどんなに彼を傷つけてるってこと? それとも、きみのせいでどれだけ彼が涙を零したかってこと? きみが彼に近づくたびに彼は手ひどく傷つけられて何度もなんども泣いて悲しんでくるしんで、それでも気丈になんでもなかったかのように、まるできみは大事なともだちだというふうに振る舞うんだ。かわいそうだよね。彼はやさしいからきみを拒絶できない。彼はとっても甘くてやさしくてまるで聖母みたいに、きみの悪魔じみた振る舞いに対してもきみを責めたりなんかしない。あんなことをするのはきみがひどい人間だからなんかじゃなく、自分が悪いからだって自分を責めるんだ。ああ、かわいそうな遊戯くん。きみが遊戯くんに近づかなければ、遊戯くんは自分をあんなふうに責めたりしない。―――ねぇ、そう思わない?」
 獏良はざらざらとした砂糖を飲み込んで、にっこりと微笑む。
 皓々と光る蛍光灯のした、ふふふ、と獏良はたのしくてたまらないというふうな明るい笑い声をあげた。


「―――ひどいかおだね、かいばくん!」


(だってぼくは遊戯くんのことをすきなやつもきらいだし、遊戯くんすきなやつのことも大大大大ッきらいなんだ!)



「かいき」のけうさんがドエス獏良くんを描いてくれてうれしかったのでついカッとなって妄想した。あまり反省はしていない・・・。
きみなんて〜の部分に当てはまる言葉は「ライバル」ですよ。
その気持ちが恋心だということに気付かず、ただ苛立って相棒に絡んでくる社長と、
その行動が突飛過ぎるあまり嫌われていると思ってる相棒と、そんな相棒を慰めつつ社長のことがだいっきらいな獏良くんという三角関係です。
なにこの萌えるシチュエーション。
ちなみになぜ場所が理科室かと云うと、ただ単にカップを揺らす獏良くんが書きたかったからです(・・・)
最初社長室とかにしてたんだけど、獏良くん学ランだったから学校にしました。
そんでお茶飲めるっていうと理科室くらいかなって・・・・・・
勝手にアルコールランプで湯を沸かしてティータイムすんなって感じですがそのあたりは気にしてはいけない/(^o^)\アーアー聞こえなーい
ほんとは獏良くんが社長にお茶をぶっかけて笑いながら
「お茶が冷めててよかったね」とか云わせる予定だったことは内緒なんだぜ・・・でもそっちもすごく捨てがたいんですが!
たぶんこれは海⇔表←獏なんですよ。獏良くんだけが何もかも知っている。
この3人の昼ドラってほんとに萌えると思います。ハァハァ。
ということで、けうさんに捧げます。勝手に書いてすいません・・・。

2008.01.15(日記ログより)