前略、ボクのヒーロー


―――遊戯、ごめん。ごめん遊戯。カード、頑張って捜したんだけど、2枚しか見つけらんなかった。ごめん、ごめんな・・・・・・。
 城之内くんはほんとうに済まなそうに、自分のほうがカードをなくしたみたいに、痛くてたまらないような顔をして云う。ごめんな、遊戯・・・。びしょ濡れのからだを、服を、髪を拭こうともしないで何度も何度も城之内くんは繰り返す。城之内くんの頬を海の水がまるで涙みたいに伝い、顎先から滑り落ちてゆく。肩を震わせてうつむく城之内くんにボクは云う。
 そんなに謝らなくていいんだよ。もうだめだと思ってたのに、2枚だけでも返ってきたんだもん。うれしいよ。城之内くんはすごいよ。ありがとう城之内くん、ほんとに、ありがとう。
 ボクは笑って嘘をつく。ほんとうは。ほんとうは、カードが戻ってきたことよりも城之内くんが飛び込んでくれたことがうれしかったんだ。ボクのために、親友のために、城之内くんがカードを追って冷たい、夜の海に飛び込んだとき、心臓が止まりそうになった。うれしくてびっくりしてかなしくて、胸が痛くなった。(城之内くんが死んじゃったらどうしよう!)目の前が真っ暗になって、泳ぎが得意なわけじゃないのにボクも海に飛び込んでいた。水の冷たさにからだがしびれて、そのあとは必死で城之内くんの腕をつかんだ。ほかのことはよくおぼえていない。ほんとに夢中だったから。
 それでも城之内くんの腕を掴めてほんとうによかった。あの手を掴めなかったらと思うとぞっとする。(城之内くんが冷たい水の中へ沈んでいく姿は今でも脳裏に焼きついて、消えない)
 でもおまえまでこんなに濡れちまってさ・・・、とボクの濡れた髪をタオルでこすりながら城之内くんが云う。心底くやしそうに、つらそうに。(城之内くんのほうこそ、こんなにびしょ濡れなのに)
 ううん、いいんだ。だってボクのカードなんだもん。ボクが取りに行くのはあたりまえだよ。
 そう云っても城之内くんはあんまり納得してないみたいに、でもよ、と唇を噛んでいて、ボクはそんな城之内くんが大好きでだいすきで、・・・・・・そしてちょっとばかりきらいだ。
 ボクが取り戻したかったのは、カードじゃなくてキミだったんだ。城之内くん。ボクの大事な友だち。キミが無事でいてほんとうによかった。(ははっ、いまでも手がちょっと震えてる。情けないなあ・・・・・・)
「・・・城之内くん、うれしかったけど、でももうこんなことはしないでね」
 ボクが云うと、城之内くんは、きょとんとした顔で、まばたきをした。・・・ゆうぎ?
 びっくりしたような顔の城之内くんの瞳のなか、怒ったような泣きそうなような顔をしたボクが映りこんでいる。城之内くんの頭にかかったタオルに手を伸ばして、髪の水気を吸い取りながらボクは云う。
「城之内くんの方がカードより、もっともっともっと大事なんだからさ」

 それでもキミが死んでしまったらどうしようだなんてボクがどんなにどんなに心配したか、城之内くんはきっとわかってない。


(あんなに心臓が止まりそうな思いはこれっきりにさせてよねと心底祈るボクのこころなんてきっとヒーローなキミにはお構いなし)



あそこでためらいなく海に飛び込める城之内くんってすごすぎる。
そしてさらっとその後を追うAIBOもすごすぎますが(そして城之内くんを救出wあれぇ?笑)
城之内くんはまごうことなきヒーローですが、その我が身を省みずに他人のために命まであっさりと投げ出しそうな様子は
城之内くんのことを大切に思う相手にとってはたまったもんじゃないと思います。
遊戯王のヒーロー(城之内くんしかりAIBOしかり)は自己犠牲的でかっこいいけどちょっとつらいんだぜ・・・。
好きだからこそあぶないことはしないでほしいのです。聞きゃしないんだろうけど(笑)
2007.11.18