01:の中で


 眠れなかったら、眠る前にホットミルクを飲むといいよと教えてくれたのは獏良くんだった。城之内くんは、これで柚子湯にしろよって柚子をくれて、本田くんが、それを入れるネットを買ってくれた。御伽くんがヒーリングミュージックのCDをくれて、杏子はポプリを分けてくれた。家に帰ると、じーちゃんがベッドのなかでやりなさいと英語ばっかりでむずかしそーな真新しいパズルを渡してくれ、ママは晩御飯にあつあつのクリームシチューと駅前のお店で売ってるフォンダンショコラを出してくれた。レベッカからはハートマークでいっぱいのエアメールが添えられた蜂蜜が届いた。
 ボクは晩御飯を食べて、柚子湯に入り、レベッカからのエアメールを飲みながら蜂蜜入りのホットミルクを飲んだ。歯を磨いて、枕元にポプリとCDデッキを置いて、じーちゃんから渡されたパズルにベッドのなかで取り掛かる。ああでもないこうでもないと唸っていると(そもそも説明書がわかりづらいのだ。全部英語だし)、机の上の電話がぶるぶる震えだした。ディスプレイを確認すると、モクバくんだった。二言三言言葉を交わして、電話が代わられる。海馬くん。フン、と鼻を鳴らして、海馬くんが云う。まさか布団から肩を出してるんじゃあるまいな。その言葉にボクはあわてて毛布を肩まで引き上げる。また海馬くんが鼻を鳴らした。せいぜい厚着をしろ。暖房をつけるなら、加湿器をつけろ。眠くなくても目を瞑れ。ゲームは仕舞え。まるで海馬くんはボクのママみたいだねとボクが云うと、海馬くんは黙りこくった。怒ったかなと思ったけれど、海馬くんは静かに、いいな、とにかく目を瞑ってモンスターでもカードでもなんでも数えていろ、と云い、またすこし黙った。ボクも黙っていた。受話器の向こう側で、かすかにモクバくんの声が聞こえたと思うと、海馬くんがため息混じりに、おやすみ、と云ったのに、ボクは何度か瞬きをして、それでも笑って答えた。ありがとう、おやすみなさい海馬くん、モクバくん。おやすみ、遊戯、とモクバくんの声が聞こえて、電話は切れた。ツー、ツー、という音をしばらく聞いていたけれど、無音になったのでボクはようやく電話機を机の上に戻し、コンポの電源を切って、パズルをケースに仕舞った。電気を消す。しんと静まり返った部屋のなかでボクはベッドで丸くなり、目を閉じる。ブラックマジシャン、ブラックマジシャンガール、クリボー、ガンドラ、サイレントマジシャン、サイレントソードマン・・・・・・
 数えても数えても終わらない。時計を見ると、ゆうに3時間半が経っていた。
 ああ今日も眠れないかもなと思う。きっと魔法カードをあげているうちに空が白んでくるだろう。
 ごめんね、とみんなの顔を思い浮かべる。あんなに心配してもらったのに眠気はちっとも訪れてこない。
 どうしてだろうと考えながらボクは記憶を辿る。
 正解はいつだってボクの胸元にあるけれど、ボクはそれを知らないような顔をしている。
 だって、だってさ、

 ―――夢のなかですらキミに会えなかったらと思うと、ボクはこわくてしかたがないんだ。

 キミの名前を、ボクだけが呼ぶ名前を胸の中で何度もなんども繰り返す。
 夜が明けて、ひかりがボクを照らすまで、何度も、なんども。

(もうひとりのボク、やっぱりボクはキミに会いたくてたまらないよ)




たぶん闇表。不眠症相棒。
相棒はこんなに弱くないだろうなと思いつつも、
王様がいなくあったあと情緒不安定になった相棒のことを妄想すると、ときめきます・・・^p^
2008.01.03(日記より)

物書きさんに20のお題(http://20odai.gozaru.jp/index.htm)より『銀』で書いたもの。
日記でお題更新しようかな!と思ってたんですが途中で力尽きたらし(ry
UP日:2008.04.21