06:おはじき


(・・・・・・だからぼくはきみがすきなんだ、)

 ちいさな布袋から零れ落ちて床のうえに落ちたそれを拾い、遊戯くんはこれなあに?と首を傾げた。ひかりに透かしながら片目でそれをじっと見つめる遊戯くんはちいさな子どもみたいで、ぼくは思わず笑ってしまい、遊戯くんはきょとんとぼくを見返す。獏良くん? ごめんね、と笑いながら手を差し出すと、遊戯くんは不思議そうな顔をしながら、ぼくの手のひらにそれを載せてくれた。
 でも割れなくてよかったね、下フローリングだしさ、ちょっとどきどきしてたんだ。
 ぼくの手のひらのうえのおはじきをじっと覗き込みながら遊戯くんが笑う。
 ・・・うん、そうだね。ぼくが答えると、遊戯くんは、きれいだねぇと云って、それを指先でつついた。あんまりにも真剣に見つめるものだからぼくが遊戯くんの手をとり、やわらかな手のひらにそれを移すと、ちょっと照れたように、ありがとうと頷いた。
 遊戯くんは窓の傍によって、おはじきをまるで宝物みたいに扱う。そっと目の前にかざし、きらきらしたひかりに目を細めた。オレンジ色の模様の入ったおはじきをそうやって覗き込む姿は、昔見た光景にそっくりで、ぼくはまるで白昼夢を見ている気分になった。(「―――――」、耳の奥、記憶の底からあまい声がぼくを呼ぶ、)
 水の中にいるみたいだねと遊戯くんが云い、ぼくも、そうだね、と頷いた。
 大切にたいせつに、今まで誰にも見せず、誰にも触らせずにいたそれを、遊戯くんにこんなあっさりと貸してしまえた自分がふしぎで、それでもうれしそうな遊戯くんの姿を見ているとまったく不思議じゃないとも思えた。
 それは、きっと遊戯くんが遊戯くんだからなんだろう。遊戯くんはこんなものを大事そうにしまいこんでいたぼくを馬鹿にするでも、妙に思うこともなく、ただきれいだねと云ってくれて、ぼくはそれがたまらなくうれしかった。
 ぼくは袋の片隅に残っていたもうひとつの、ブルーの模様のおはじきを取り出して、ぎゅっと手のひらに握りこんだ。ひやりとした硝子の感触にぼくは呟く。

 ―――天音、これがにいさんのすきなひとです。

 (幼い妹がいつも大切にしていたおはじきはもっとたくさんあったのだけれど今はもうこの2つだけになってしまっていてぼくはそれをまるでいなくなった妹の代わりみたいに後生大事に抱えている、あまねがおれんじでおにいちゃんがあおね、とたどたどしく笑った声の輪郭はもうだいぶ薄れてしまったけれどあのとき触れた指先の温度を忘れることはきっとない、)

 遊戯くんは、よくあの子がしていたのとおんなじようにおはじきを光にかざし、それを見つめるぼくに気付くとやわらかく微笑んだ。
 指先で触れた遊戯くんの頬の温度はあの子のそれとすごく似ていた。




天音ちゃんに関しては疑問が尽きない。
初登場時に獏良くんが手紙を書いていた相手である妹の天音ちゃんは、
単なるうっかりによるもの(設定消化し忘れ)なのか意図的な存在なのかによってだいぶ解釈が違うとは思うんですが。
まさか死んだ妹にあたかもまだ存命のように手紙を書くDENPAっぷりには衝撃を受けたものです。
でもそんな電波なところもたまらない(笑)。
別に獏良くんは相棒が妹に似てるからすきとかそういうのではないです。
相棒が相棒たる所以である、何があってもやさしく笑って受け入れてくれるところがすきなんだと思う。
遊戯王キャラって基本的にどっかしら欠損しているイメージなので、
その欠けた部分ごと包み込んでくれる相棒っていう構図が前後不覚になるほど好きです。
ドリーマーですみません・・・・・・。
08.01.22(日記より)

物書きさんに20のお題(http://20odai.gozaru.jp/index.htm)より『銀』で書いたもの。
日記でお題更新しようかな!と思ってたんですが途中で力尽きたらし(ry
UP日:2008.04.21