アンバランス・ラヴァーズSIDE:遊戯


 ママ、じいちゃん、せんせい、それにアテム。ここにかききれないくらいいっぱいのひとに心ぱいをかけてしまいました。ごめんなさい。ボクはわるい子です。でもボクは自分がしたことを後かいしていません。でもみんなにいっぱい心ぱいさせてしまったのはほんとうです。それだけはみんなにあやまりたいです。
 バクラくんはぜんぜんわるくありません。だからバクラくんのことをおこったり、バクラくんのことをわるい子だとおもわないでください。バクラくんはとてもやさしいです。みんなバクラくんのことをふりょうだとかいうけれど、それはほんとうじゃないです。バクラくんはボクをたたいたりは一どもしませんでした。ボクがかなしかったとき、なんにもいわないでずっとボクのそばにいてくれました。手をにぎって、なぐさめてくれました。ボクはバクラくんが大すきです。だからバクラくんがいなくなってしまうのがすごくすごくかなしくて、どうしたらいいかわからなかったんです。
 バクラくんはボクのためにいっしょにいてくれて、ボクはそれがとてもうれしかった。だからバクラくんをおこらないでください。
 なんでこんなことをしたの、とみんなにきかれたけれど、ボクはなんてこたえたらいいのかわかりませんでした。はなさなくちゃいけないことはきっとたくさんあるんだけれど、たくさんありすぎてどこからはなせばいいのかわからなくなって、こまっていたら、せんせいが文字にしてまとめてみなさいといいました。遊戯くんは作文がとくいだからそうしたらきっとうまくつたえられるよって。だからこうやって文字にしてみることにします。
 うまくかけるかわからないけど、がんばります。



 ボクがはじめてバクラくんに会ったのは一年くらいまえのことです。ずっとだれもすんでいなかったとなりの家にひっこしてきたのがバクラくんでした。おかあさんと、バクラくん、それにバクラくんのふたごのおにいちゃんのリョウくんです。リョウくんとバクラくんはかおはとってもにてるってみんないうけれど、ぜんぜんちがうって二人ともいいます。ボクもそうおもいます。そういうところはボクとアテムににているなあっておもいました。ボクとアテムもふたごだけれど、ぜんぜんにてないです。
 ボクはさいしょのころは、あんまりバクラくんとはなしたことはありませんでした。リョウくんとはよくあそんだりしたけれど、バクラくんはボクにはなしかけたり、わらったかおを見せてくれたことがなかったから、きっとバクラくんはボクのことをすきじゃないんだろうなとおもっていました。
 バクラくんはひっこしてきてから、ケンカばかりしていて、いつもどこかにけがをしていました。
 ある日ボクがいえの前でシャボン玉をふいてあそんでいたら、バクラくんが前をとおりました。バクラくんはひとりですわっているボクをちらっと見たけれど、なんにもいわずにいえの前のかいだんにすわりました。バクラくんのほっぺたは赤くはれて、おでこからは血がでていました。ボクはおどろいて、バクラくんのところに走っていきました。どうしたの、ときいてもバクラくんはこたえてくれませんでした。おうちに入らないの、ときいたらやっと「カギがないから入れない」とこたえてくれました。ボクはなんにもいわずに、いえのなかに入りました。バクラくんはやっぱりなにもいいませんでした。
 しばらくして、ボクがいえから出てきても、バクラくんはまだいえの前にすわっていて、ボクがかけよって、ぬらしてきたハンカチでおでこの血をふいてあげると、バクラくんはおどろいたかおをしました。なんだよ、というので、血がでてるから、とボクはこたえました。手当てをしなきゃバイキンが入っちゃうよ。ボクがそういうと、バクラくんはなにかいおうとしたけれど、リョウくんがかえってきたので口をとじてしまいました。リョウくんはボクとバクラくんを見くらべたあと、バクラくんをおこったようににらみました。バクラくんはやっぱりなにもいいませんでした。リョウくんはボクににっこりとわらいかけて、こわいおもいをさせてごめんね、といいました。ボクはそのときやっとボクがバクラくんをこわいとおもっていたことをおもいだしました。リョウくんは、もうだいじょうぶだからね、とだまってしまったボクのあたまをそっとなでて、ポケットから出したカギでドアをあけました。リョウくんにつづいていえのなかに入ろうとしたバクラくんのうでをつかんで、ボクはもっていたばんそうこうをバクラくんの前につきだしました。バクラくんはなんにもいわずにそれをとって、らんぼうにボクのあたまをぐしゃぐしゃとなでて、いえのなかに入ってしまいました。
 ボクはもうバクラくんをこわいとはおもいませんでした。

 それからバクラくんとちょっとずつはなしたり、あそぶようになりました。バクラくんはボクのしってるだれよりもシャボン玉をふくのがうまくて、バクラくんにおしえてもらううちにボクもクラスで一ばんシャボン玉がじょうずになりました。せんせいはシャボン玉がうまくふけるのは遊戯くんがやさしいっていうしょうこね、とほめてくれました。バクラくんがいうなといったから、バクラくんがおしえてくれたことはだれにもいわなかったけれど、ボクは、バクラくんがほんとうはやさしいっていうことをみんなにもわかってもらえたみたいで、とてもうれしかったです。
 ボクがママにおこられたり、アテムとケンカして泣いているときも、バクラくんはいつもとなりにいてくれました。リョウくんみたいにやさしくしてくれるわけじゃなかったけれど、それでもなんにもいわずにずっととなりにいてくれて、ボクはそれがとてもうれしかったです。
 バクラくんはボクがばんそうこうをあげてから、すこしずつ、ケンカをしなくなっていきました。バクラくんがけがをするたびに、ボクがかなしそうなかおをしたからかもしれません。だとしたら、やっぱりバクラくんはとてもやさしいひとだとおもいます。

 ボクはバクラくんとなかよしになりました。ボクとバクラくんがいっしょにいると、アテムやリョウくんはいやそうなかおをするからナイショにしてたけれど、ボクはバクラくんがとてもすきでした。バクラくんはいろんなあそびをしってたし、運どうもなんでもできてかっこよかったし、なによりとってもやさしかったから。

 でもバクラくんはまたひっこしをしてしまうことをしりました。バクラくんのおとうさんとおかあさんはリコンしているのだけれど、バクラくんはとおくにいるおとうさんといっしょに住むことになったそうです。バクラくんとおわかれしなくちゃいけないとしったときに、ボクはとてもかなしくてかなしくて、わんわん泣いてしまいました。さよならしたら、もう会えないかもしれないほどとおくだったからです。
 バクラくんはこまったかおで、ボクをなぐさめようとしてくれました。泣くなよ遊戯。またきっと会えるからさ。でもボクはそれがうそだとわかっていたから、なみだが止まりませんでした。もっといっしょにいたいよというと、バクラくんは、おれだって遊戯といっしょにいたいさ、といって泣きました。ボクはバクラくんが泣くのをはじめて見たからびっくりしました。
 その日、ふたりではなしあって、ずっとふたりでいられるところに行こうと決めました。
 夜にみんながねてしまってから、ボクとバクラくんはこっそりといえをぬけだして、歩きだしました。どこまでいったらいいかわからないし、あたりはすごくくらかったけど、バクラくんがボクの手をにぎってくれていたから平気でした。バクラくんがいてくれたらボクはなんにもこわくないから。


 ボクたちが見つかったのは、それから何日もたったあとでした。バス停のベンチでねていたボクらをじゅん回ちゅうのおまわりさんが見つけて、ボクのリュックについていた名ふだから、ボクたちがゆくえ不明になっていたどみの町の子だということに気づいたんだそうです。

 ボクたちはすぐにいえにつれもどされました。いえにかえると、みんなボクらを心ぱいしたり、おこったり、ぶじにかえってきたことをよろこんだり、大へんでした。
 ママもじいちゃんもアテムも泣いていて、ボクはむねがいたくなりました。心ぱいさせてごめんなさいとあやまると、「おかえりなさい遊戯」とボクをぎゅっとだきしめてくれました。
 バクラくんはいっぱいいっぱいおこられていました。バクラくんのママは泣きさけびながら、あんたって子は、とバクラくんをたたきました。バクラくんはどんなにひどくぶたれても、なんにもいわずに、じっとしていました。わるいのはみんなボクなのに。ボクが泣いたから、バクラくんはボクをつれていってくれただけなのに。ボクはそれをみんなにいわなくちゃいけないとおもったのに、けど、なんていえばいいのかわかりませんでした。バクラくんがどんなにやさしかったか。バクラくんがどんなにボクをたすけてくれたか。どうしたらみんなにちゃんと伝わるんだろうとおもって、それをうまく伝えられないことがくやしくて、ボクは泣きました。
 バクラくんはわるくありません。わるい子なのはボクだけです。
 だからおねがい。バクラくんをおこらないでください。これ以上バクラくんをきずつけないでください。ボクのおねがいはそれだけです。

   武藤遊戯



SIDE:バクラ




どうもわたしは“幼い恋の顛末としての逃避行”というシチュエーションにとても弱いらしく(笑)
他のジャンルでもこんなの書いたよなあ・・・とか思いながら書きました。貧困すぎる!
桐野夏生の「残虐記」を読んでたら書きたくなりました。内容はぜんぜん関係ないんですが!w
相棒は小学2年生くらいでしょうか。そのわりにはちょっとひらがなを多くしすぎたような・・・(しまった・・・)
続編といっしょにそのへんも修正したいです。

2008.03.31