CHILD IN THE WINDOW
窓の中の子ども
その窓からはいつだって子どもが覗いていた。 ジャックは母や、時には父に手を引かれながら毎日その窓に面した道を通っていた。両親は治安のよろしくないその地域を通るのを嫌がっていたが、仕事に向かうためには幼い息子をその道の先にある家に預けなくてはならなかったのだ。 足早に歩く母に手を引かれながら、ジャックは道のすぐ脇にある建物やその庭で駆け回る子どもたちをじっと見つめていた。かまびすしい笑い声、喧騒、泣き声、けたたましい叫び声。 母が視界に入れるのもいやだと云わんばかりに目を背けていたその建物は孤児院だった。 その道を通ると、いくつもの瞳がジャックと母を追いかけ、その視線や笑い声にジャックの母はますます神経過敏になるのであった。母は何度も繰り返した。―――いい?ジャック、あなたはあの子達とは違うのよ。あんなふうに下品で汚らわしい子になっては駄目よ。 そう血走った瞳で自分を見つめてくる母がジャックはとてもいやだった。普段はうつくしい母の容貌が醜く歪むのがおそろしく、これはほんとうに自分の母なのだろうかと時々詮無い不安に襲われたりもしたものだった。 庭から、部屋の窓からいくつもの顔がジャックを見つめていた。ある子は興味深そうに、またある子は妬ましそうに。子どもたちは皆一様になんらかの表情を浮かべていた。―――ただ一人を除いては。 毎日のように孤児院の前を通るうちにジャックはひとりの少年に目を留めるようになった。窓から覗いている子どもはたくさんいたけれど、毎日外を眺めているのはその少年だけだったのだ。晴れの日も、雨の日も、曇りの日も、雪の日も、少年はひとりぽつんと窓際に立って外を眺めていた。 少年はちいさな右手を窓にぺたりと貼りつかせ、ただじっと無表情で窓の外を毎日まいにち眺め続けていたが、その表情はおそらく外を歩くジャックのことになんて気がついてすらいないんじゃないかというような虚ろなものだった。その様子と、白い肌や大きな瞳といった整った容貌が少年をまるで精巧な人形のように見せていた。きれいなお人形。ジャックは少年のことをこっそりそう呼んでは、毎日彼の姿を見るのをひそかにたのしみにしていた。 あの子の名前はなんていうのだろう?年は?自分と同い年くらいだろうか、それとも年下?どんな声で喋るのだろう?どんなふうに笑うのだろう?どんなふうに泣くのだろう?あの深い海のような瞳はなにを見ているのだろう? ジャックのなかに疑問ばかりが募ってゆくけれど、それがあの人形めいた少年にむかってその問いが発せられることはなかった。 母に左手を引かれながら、あの子の手もこんなふうに冷たいのだろうかとジャックは窓を見上げながら考えていた。 ―――そしてジャックがその少年と初めて視線を交わすことになるのは、それから何週間も経ったあとのことだ。 |
幼少時代捏造はたいへんたのしいです。
なんかうまく書けなくてかなしい。むずかしいなあ・・・
その後の展開は各自脳内で適当に補完しておいてください(笑)
それにしてもさすらいさんの子不動さんは垂涎ものである・・・ハァハァ
2008.11.27